二度目のワールドカップにて、日本代表内で孤立した大空翼はブラジルに帰化し、ルールを曲げてブラジル代表の座におさまった。
結果的に、日本の敵となって立ちはだかったわけであるが、“友人”である石崎の元には取材や問い合わせ、さらには脅迫まがいの電話などが殺到したという。
“友人“石崎にもブラジルへ帰化することの相談はなかったらしく、石崎はテレビ局からの問い合わせにより、初めて事実を知ったという。
混乱して支離滅裂なことを口走っている石崎の映像が、当時を振り返るとき、必ず放映されている。
「大空翼はひとりよがりなところがあった」とは、森崎有三が著書の中で語っていることではあるが、中学時代ひとりよがりのプレイをする翼に対して、「俺たちは仲間じゃないのか！」と怒鳴ったことがあると、石崎も追認している。
ただし、そのあと起こった翼バッシングに関しては、石崎は翼をかばう発言をしている。
「孤立している翼に誰も声をかけなかった。俺たちも翼を追い詰めたんだ」「俺たちが翼の足をひっぱっていたのは事実かもしれない」とは、当時の石崎の発言である。
同様のことは岬太郎も述べている（南葛出身者たちでこの問題について口裏を合わせていたという意地の悪い見方もあるが）。
大空翼率いるブラジルが決勝で三杉淳率いる日本を破ったことで翼バッシングは頂点に達したが、石崎たちは沈黙を守り通した。
この大会での石崎は、自殺点もあったが貴重なゴールもあげている。
また、ピンチの場面で顔面ブロックも決めている。
ただし、決勝戦にて最後にPKを外したのは石崎だった。
対ブラジルの決勝戦、延長戦を終え、2対2のまま決着が付かず、試合はPK戦に持ち込まれた。
若林、サリナス両キーパーの活躍により、両国が8人目まで蹴りあった上に、2対1というロースコアになった歴史に残るPK戦であったが、最後に止められたのが石崎だった。
「まさか石崎まで回ると思っていなかった。6人目からのメンバーは適当に決めていた」という松山光の証言がある。
しかし、皮肉にも、このとき号泣する姿がテレビに大写しになり、石崎の好感度は上がったといわれている。
日本国民が大泣きする彼に共感したのだろう。
翼へのバッシングは収まらなかったが、日本代表たちは好意的に国民およびマスコミに迎えられた。
特にお調子者の石崎はひっぱりだことなり、しばらくはバラエティ番組などで彼を見ない日はなかった。
この頃、「燃え尽きた」とサッカー選手として引退を決めたため、芸能事務所とマネージメント契約を結び、タレントとして活動を始めた。
私生活では元南葛中サッカー部マネージャーの西本ゆかりと結婚し、盛大な結婚式を挙げている。
ちなみに西本ゆかりは“アジアの壁”次藤洋のいとこでもある。
「とんでもない親戚ができてしまった」とは石崎、次藤双方の言い分である。
この結婚式に大空翼はバッシングを恐れて出席しなかったようだが、石崎が新婚旅行でバハマを訪問していることから、そこで出会っていたのではないかと噂されている。
タレントとしての石崎は賛否両論あるようだが、現在のところ仕事を絶やすことなく順調に稼いでいるようである（ただし、演技力は皆無のようで、ドラマには一度出演しただけで以後オファーがない。歌に関してもシングルを二曲出したものの、一作目は勢いで三万枚ほど売れたが、二作目は壊滅的なセールスだったという）。
一方、石崎には別の才能“も“あったようで、現在、青年実業家としても活躍中である。
石崎の実家は「石乃湯」という銭湯であったが、銭湯にフィットネスの要素を取り入れる方式が話題を呼び、現在、石乃湯はチェーン店化され、静岡を中心として関東一円に100店舗を展開するほどとなっている。
また、スポーツ選手が利用する会員制のスパ付きスポーツジムを経営しており、こちらも好評だという。
タレント活動はちょうどよい宣伝を兼ねているようだ。
事実、石崎は親しい黄金世代の某選手に「立花兄弟ほど必死になれない俺はそろそろ飽きられるよ」と語ったとされている。
立花兄弟はアキレス腱を断裂してから、双子のキャラクタを生かして大丸とともにタレント活動（一時、石崎もメンバーに加入するという噂があった）を行っているが、もはやタレント以外に生きる術のない彼らに比べて、実業家として、さらにはサッカー指導者としての道もある石崎は、自らの引き際を知っているのだろう（もっとも、石崎に指導者としての需要があるかは別問題だが）。
また、一説によると、バラエティ番組の中で「石崎の顔面はどれほど硬いか？」という企画で、ボウリングの球を顔に投げつけられたことに対して激怒したという噂があり、そのときタレント活動に絶望したともいう。
日本サッカー界が黄金世代後に低迷し、大空翼の時代が懐かしまれ、翼復権の動きが見えたとき、石崎は「翼の引退試合を日本で行おう」と真っ先に提案した。
石崎はブラジルの翼と絶えず連絡を取っていたようだ。
話はとんとん拍子にまとまり、試合も大成功に終わるが、ビジネス界で才能を見せる石崎の力量が貢献したようだ。
石崎了への評価は賛否両論である。
一般的には「技術面では黄金世代の中では目立つほどではないが、時折、奇跡的なプレイを見せる幸運な男」と評価されている。
危機的なピンチを招いたのは石崎のディフェンス能力に問題があったからだという辛辣な評価もあれば、ピンチを何度も救った男という評価もある。
闘志という面では誰にも負けていなかったという評価もある。
ムードメーカーとしての存在も大きかったと黄金世代の選手たちはいう。
何より、大空翼を手なずけていたのは石崎だけといわれており、それが最大の貢献だとも言われている。
三杉や日向は批判がタブー視されている面があるのに対し、石崎に関しては賛否両論ではあるが、皆が何らかのコメントをする。
逆に言えば、親しまれている証拠と言えないか。
贔屓目に見ても、同年代の黄金世代の選手と比べて才能があったとは思えないが、その選手が日本代表の主力としてワールドカップ優勝まで経験するのだから、努力は並大抵のものではなかったと思われる。
その点はもっと評価されてもよい。
お調子者の印象が強い石崎ではあるが、陰では何度も悔しさで涙する姿を見たという証言もある。
丸刈り、どんぐり眼、低い鼻、小柄な肉体、時には空気が読めないといわれるお調子者な姿は今も変わらない。
しかし、サッカーへの情熱とガッツでは、彼もまた黄金世代の誰にも負けていなかったと私は思いたい。
文責：片桐宗政（元Ｊリーグチェアマン）
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