二次創作小説:私の考えた「パタリロの最終回」

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常春の国マリネラはいつもと変わらずのどかだった。
王宮では今日もパタリロ8世が怪しげな発明品で小規模な爆発を起こしてはいたが、いつものことなので、国民も特に驚きはしなかった。
「退屈だ」
爆発を起こしておきながら、パタリロはつぶやいた。
ダイヤモンド産業で経済が安定しているマリネラは平和な国だった。
「退屈こそが一番怖い」とかつてのフランス王妃マリー=アントワネットは発言したというが、パタリロも同じ心境であったのかもしれない。
世界中、いや、宇宙や異次元までも旅しているという噂のあるパタリロであるが、それだけに、ありきたりな刺激では満足できないのだろう。
神へ願いが届いたのか、珍しい来客があった。
「ヒューイット、久しぶりじゃないか!」
CIAのエージェント、ヒューイットだった。
あいさつを交わしてパタリロはすぐに少女へと変装する。
ロリコンのヒューイットをからかってのものだが、ヒューイットはわかっていたかのようにパタリロへ右フックを放ち、壁に激突させる。
お互いお約束の“軽い”あいさつだった。
「あいかわらずだな」
お互いがそう口にした。
「それで今日は何のようだ?」
パタリロが要件を振る。
「うん? 君が来いというから来たのだが……」
そういうと、ヒューイットは手紙を見せた。
そこには確かにパタリロのサインがされていた。
同時に可憐な幼女の写真も同封されていた。
「こんなもの送ってないぞ」
パタリロは幼女の写真については無視して答えた。
おそらく、この写真につられて来たのだろうが、パタリロはそのような少女に面識がなく、ヒューイットの希望には応えられそうになかったからだ。
「なんだって!」
と、ヒューイットが怒りかけたときに、もうひとり来客があった。

「お久しぶりです。殿下」
恐縮し、最敬礼したのは渋い紳士だった。
パタリロがその顔に覚えがなかったので怪訝そうな顔をすると、心得たとばかりに男はメガネを顔にかけ、おどけた表情を見せた。
「あ、警察長官! 久しぶりじゃないか!」
かつては側近であったが、最近はとんとご無沙汰な警察長官だった。
普段はとぼけた感じのある警察長官であったが、実はマリネラ秘密情報部の凄腕エージェントという裏の顔を持っていた。
しかし、それが皆にバレたため、今はエージェントを中心に活躍しているという。
「ご無沙汰しております。して、私に御用というのは……?」
「えっ、おまえまで何を言うんだ? みんなして僕をからかっているのか?」
「とんでもない……殿下が火急の御用だと連絡を下されたのでかけつけたのです。久々の出番だと思ったのに……」
警察長官の言に嘘はなさそうだった。
(何か、おかしい……)
パタリロは計算を始めたが、さすがの人間コンピュータも思考を邪魔されては何も導き出せない。
続いて現れたのはプラズマXとその家族であった。
これまた久しぶりの登場だった。「ビー・ビー・ビー」とうるさい。
さらには間者猫やスーパーキャット、黒タマネギ部隊や、忘れかけていた親戚のヨタリロやマッタリロまでが現れる。
パタリロの母エトランジュも久々に登場。
はっきり言って覚えていないような連中までが我も我もと押しかけてくる。
とどめというべきだったのが、某国の国家主席で「君、大変可愛! 我欲求不満!」などとパタリロに襲い掛かってきた。
広い謁見の間であったが、あっという間に知り合いたちに埋め尽くされ、すし詰めのような状態となった。
「一体、どうなってるんだー!」
悲鳴に近い叫び声をパタリロはあげた。
自らはなんとかゴキブリ走法で喧騒から抜け出す。

一息ついていると、男の低い声が聞こえた。
「まったく……これは何の騒ぎだ」
抜け出したパタリロの前に現れたのはバンコランとその妻(?)マライヒ、そして息子のフィガロだった。
バンコランは明らかにイライラしていた。
美しい男であるが、短気なところがあるのをパタリロは長い付き合いでわかっていた。
もちろん、自分が主なイライラの原因であることも。
「バンコラン、いいところに来た。なんとかしてくれ。わけがわからないんだ」
「すべてのトラブルの元凶が何を言っている」
「違う。僕は何もしていない。なのに、何者かが僕の名を語って皆を集めたんだ」
「何、するとこれも違うのか?」
バンコランは懐からダイヤの写真が入った手紙をパタリロに見せた。
マライヒに宛てられた手紙だった。
懐にはもう一通手紙があるのをパタリロは見逃さなかった。
というより、バンコランがわざとパタリロに見せたと思われた。
おそらく、そちらには美少年の写真が同封されているのだろう。
バンコランの眉がつりあがっていた。
美少年の写真がでたらめで、しかも、やってきたらこの騒ぎである。
イライラが募るのも無理はなかった。
冷や汗がパタリロの脂肪過多な背中を伝った。
ただ、それはバンコランに恐怖したからではなかった。

(なんだ、この気配は……?)
プレッシャーのようなものをパタリロは感じた。
重苦しい空気だ。
さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。
静まり返るというより、誰も動いていなかった。
時間が止まっていたのだ。
パタリロは思わずバンコランの股座をつかんだ。
普段ならバンコランとマライヒに即座にぶん殴られたことだろう。
しかし、バンコランは眉をつりあげた表情のまま動かない。
『パタリロ8世よ』
男とも女ともつかぬ声が、狼狽するパタリロを呼び止めた。
やさしい声ではあったが、威厳に満ちた声でもあった。
「だ、誰だ!?」
答えはなかったが、光に包まれ現れた姿がすべてを物語っていた。
「大天使ミカエル……」
天使の軍団を率いるというミカエルは、威厳に満ちた神々しい姿であった。
バンコランとマライヒの息子フィガロの体を借り、現世で受肉化しているのはパタリロも知っていた。
両性具有の天使は男同士の婚姻から生まれるのがふさわしいのかもしれない。
しかし、そのミカエルが何の狙いで姿を現したのか。

『パタリロ8世よ、君たちの存在を消さねばならない』
こともなげにミカエルは言い放った。
彼等にとって、人間を消すのは人間が蟻を殺すのと同じ感覚なのだろう。
とはいえ、被害を受ける人間の側には一大事である。
「消す? 消すだって? どうしてだ!?」
懸命に問いかけるパタリロ。
時間稼ぎでもあった。
なんとかしてミカエルを思いとどまらせる策はないか考えなければならない。
『君は人間として持ってはならない力を得ている。時間や時空を飛び越えたり、歴史に干渉したり……それは本来、神や選び抜かれた天使しか持ってはならない能力なのだ。しかも、君に影響されてか、特殊な能力を持った人間たちが君の周りに集まりつつある。我々は君を危険と判断した』
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それならば、僕のせいで、まわりの人たちも消してしまうというのか?」
『そうだ』
「あっさりと言うな! それなら僕だけを消せばいいじゃないか」
『我々は人間そのものを危険と考えている。人間は神自らが土をこね、息を吹き入れて作られたもの。つまり、人間は神の分身なのだ。そのために時々君たちのような特殊な能力を持った人間が生まれてしまう。しかも、調子付いた人間はその力を悪いことばかりに使う。思い上がった人間には時々罰を下さねばならぬ。かつて神がバベルの塔が破壊されたように』
(話の次元が違う……)
パタリロの冷や汗はいつの間にか滝のようになっていた。
思考は止めていないが、何を考えてもすべて見抜かれている気がした。
そのとき、パタリロの細い目にバンコランの姿が映った。
美少年キラーは不機嫌そうな表情でピクリとも動かない。
「大天使ミカエルよ、バンコランまで消すのか? あなたの一生から見れば、ほんの一瞬のことだろうが、仮の肉体を作ってくれた男なのに。フィガロ、君に大好きなテレビゲームを与えてくれたのは誰なんだ?」
パタリロはあえてフィガロと読んでみた。
と、同時に両手と両膝を地に着ける。
「お願いだ! みんなを消すのは止めてくれ! 僕がすべての元凶だというなら僕だけを消してくれればいい!」
神から見れば取るに足らない人間の国とはいえ、国王という至尊の座にいる人間が土下座をして懇願するのは異例のことであった。
いつもはふざけているパタリロであったが、今はひとかけらもそんな心を持ち合わせていなかった。
しばしではあったが、大天使ミカエルが考え込んでいるのをパタリロは見逃さなかった。
火から生まれた彼らにも肉親の情はあるのだろうか。
そのとき……
『ミカエルよ』
別の声がパタリロに聞こえた。聞こえたというより、頭の中に直接入り込んでくるような声だった。
ミカエルと同じようにどこか暖かいが、ミカエルさえ比べ物にならないほど重みがある。
思わずもらしそうになったほどだ。
『ミカエルよ、おまえの負けだ。人に育てられて情がうつってしまったか』
『と、とんでもありません! 今すぐにでも彼らを……』
『もうよい。おまえを責めているのではない。人の情を天使たちも見習わねばならぬ。私はもう一度人間を試してみたくなった。かつて十字架に上った男がいたな。あのときと同じようにもう一度、この男に賭けてみよう』
『はっ、御意のままに……』
『パタリロ8世よ、人間が滅ぶも続くもおまえ次第だ……』
重みのある声はそれ以上聞こえなかった。
だが、パタリロ自身は、全身に何か目に見えないとてつもなく重い物が乗せられたかのように感じていた。
ミカエルの姿は消えた。

気づくとバンコランの拳骨がパタリロの頭に振り下ろされていた。
痛みで正気にかえるパタリロ。
「痛いじゃないか! 身長が縮んだらどうする!」
「それ以上、めり込むところがあるか! つぶれアンパン!」
いつもどおりのやりとりを見て、ただ、無邪気にフィガロが笑っていた。
その後、パタリロ8世はすっかりふざけることを止め、豊かなダイヤモンド資源を元にマリネラをますます発展させ、世界中の貧しい人々に対しても救済に努めた。
「余はキリストとなった」とは彼の残した言葉として伝わっているが、真意を知るものはいない。
彼の治世はマリネラの黄金時代とされ、後世の人は彼のことを「黄金王」と呼んだ(黄金王の由来については尾籠な別の説もある)。
またパタリロ8世の前半生は、「時空を旅した」、「悪魔と手を結び魔法を使えた」、「天使が守護についていた」などとさまざまな伝説に彩られており、後世の人々に物語として興味深く伝えられている。

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