二次創作・ドラえもん小説「ネコ型ロボットの憂鬱」

ドラえもん小説

はじめに
私の書くドラえもん小説は、一時期ネット上でも話題になったいわゆる「ドラえもんの最終回」を基本としており、その後の世界の話となっております。
「ドラえもんの最終回」の漫画は、ネットを検索したら今でも見られると思いますが、私も勝手にノベライズしていますので、よかったら読んでみてください→こちら

長い眠りだった。なんせ、目が覚めたときには、小学生が髭面の大人になっていたのだから。
みんな立派な大人になった。
乱暴者だったジャイアンこと剛田武は、実家の雑貨店を日本有数のデパートに仕立て上げ、今や流通王と呼ばれている。
最近は夢だったプロ野球団を買収し、練馬ジャイアンズのオーナーにまで上り詰めた。
所有するドーム球場で自分のコンサートまでするのだからたいしたものだ(観客のほとんどは動員された会社の職員で、しかも何人かが“シビレて“病院送りになったのはご愛嬌だが)。
意地悪で卑怯者だった骨川スネ夫は、持ち前の調子のよさを活かして、親の事業を10倍にも20倍にも膨らませ、骨川コンツェルンの総帥として、政財界に強い立場を得ている。
出木杉英才など、元々秀才だったとはいえ、今や日本国の首相だから恐れ入る。
しかし、なによりも驚きだったのは、自分の名前を「のび犬」なんて書いていた野比のび太少年が、世界有数のロボット工学の権威となり、電池が切れて埃をかぶっていた自分を再び目覚めさせたことだった。
目覚めたとき、髭面の男性が抱きついてきたのには驚いたものだ。
それが、あの野比のび太だというのだからなおさらである。
しばらくは互いに涙にくれ、再会を懐かしんだ。
源静香を妻に迎え、ノビスケという子宝にも恵まれ、社会的にも成功したのび太の成長はこの上もなくうれしかった。
テストは0点だらけ、運動はまるで駄目、道を歩いては犬にかまれ、ドブにはまり、家ではママに叱られ……あの野比のび太がロボット工学の世界的権威になるなんて誰が予想できただろう。

ノビタ=ノビの名は、今やビートルズと同じくらい世界的に知られていた。
ノーベル賞を何回も受賞し、誕生日の8月7日は世界の国々で祝日となっている。
ドラえもんを発明(?)したことで、世界中の生活レベルを飛躍的に発展させた。
貧困も戦争も彼がなくしたと言われ、聖人として扱っている国もある。
通信技術を格段に進歩させ、宇宙の星々とも交流を開いたのものび太だった。
コーヤコーヤ星やピリカ星とも通信がつながり、ワープ航法実現まであとわずかというところまで来ている。
しかし、どこか寂しさを覚えたのも事実だ。
皆が成長しているのに、自分だけが子どものままでいる。
あの頃は自分だけが大人のようで、引率者として振舞えたが、今は皆が立派な大人であり、それぞれの分野で成功した人物たちである。
もう誰も自分の助けなど必要としていないのだ。
ひみつ道具の助けなどなくとも、みんな自分のことが自分でできるような大人に、立派に成長したのだ。
のび太には道具の情報を提供したが、決して「ふえるミラー」でコピーするようなことはしていない。
道具を自分で分解して、原理を理解しろと手渡しただけだ。
そうでなければ、文明の発展に反することになると考えたからだ。
しかし、今ののび太はそれだけで自ら解析し、同じ物を作る能力を持っている。
「どこでもドア」や「タイムマシン」はさすがにまだ完成していないが、今ののび太ならいずれ実現してしまうことだろう。
「タケコプター」や「テキオー灯」などは、すでに実用段階に入っている。
ジャイアンやスネ夫ともしばらくは毎日のように会ったが、彼らも忙しい立場になり、前ほどは会えなくなった。
「あんなこといいな、できたらいいな」と少年たちの願いを叶えた自分だが、大人になってあらゆるものを手に入れた彼らを感動させることは、もはや難しかった。
もう「グルメテーブルかけ」などなくても、彼らは専属シェフを呼んで食事を振る舞ってくれるだけの甲斐性を持っているし、「ラジコン粘土」などで作った車になど乗らなくても、運転手付の高級車に乗れる立場なのだ。

彼らは自分などいなくても、立派に成長したのだ。
のび太が天才になったことには間接的に寄与したかもしれないが、彼にこれだけの能力が隠れていたことに、自分は何も気づいていなかった。
むしろ、安易に道具を提供することで甘えさせたのではないか?
自分はのび太のためになっていたのか――未来から彼の面倒を見るためにやってきたのに、彼を甘やかしていただけではないのか?
結果としては、のび太が大成したので成功したのかもしれないが、自分はただ電池が切れて眠っていただけだ……
のび太には「いつまでも一緒にいてほしい」といわれ、部屋をひとつ分け与えられている。
息子ノビスケの面倒を見てやってくれとも言われている。
とはいえ、ノビスケはもう15歳で子守が必要な歳でもない。
のび太と違いしっかりしていた。
活発なしずかの血を強く引いたのだろう。
もうここにいるべきではないのかもしれない。
元々、自分は22世紀生まれのロボットだ。まがりなりにも役目を終えた以上、自分の時代へと帰るべきかもしれない。
タイムマシンを使って、大人になったのび太と何回か会ったことがあるが、いずれの時代にも自分はのび太と一緒にいなかった。
もっとも、すでに未来は変わっているわけだが……
ロボットの自分はいつまでも歳を取らないが、のび太たちはどんどんと歳を取っていく。
老いていく彼らを見るのはとても辛かった。
いつかは本当に辛い別れをすることになる。
電池を入れ替えて元に戻るという次元ではない。
本当の別れだ。

腹は決まった。
自分は一旦22世紀へと帰る。
提案にのび太は拒絶反応を示したが、強く反対はしなかった。
自分という家族が増えたことの違和感を薄々わかっていたのだろう。
しずか、ノビスケと暮らしていた環境に自分がいては、勝手が違うのだ。
ただ、月に一度くらいは、タイムマシンに乗って会いに来る約束はしたし、タイムテレビを置いていき、いつでも連絡は取れるようにしておいた。
スネ夫もジャイアンも出木杉も一度は引き止めてくれたが、別に二度と会えないわけではないし、連絡も取れるならと反対しなかった。
「大学生が実家を離れてひとりで住むようなものだ」と出木杉はそんな比喩を使った。
まずは出木杉首相主催で、国を挙げての盛大な送別会が行われた。
続いて、剛田デパート主催の送別会と骨川コンツェルン主催の送別会。
いずれも豪華絢爛な送別会だった。
腹が裂けそうになるほど、どら焼きを食べた。
続いては、仲間内だけの送別会が行われ、気楽にすごした。
ジャイアンの歌には相変わらずシビレたが、最後だと思うと特別な気分だった。

最後に野比家だけの送別会が開かれた。
健在だったのび太の両親も参加したが、しずかとノビスケは参加しなかった。
「ドラちゃんとのび太さんの間には、私でも入れないわ」と賢妻のしずかは語った。
離れることは自分で決めたことだが、涙が止まらなかった。
そのとき気づいた。
自分はあの頃に戻りたいのだと。
決して裕福ではないが、野比家は温かい家庭だった。
だけど、もうあの頃には戻れない……
かつての自分がそうしたように、のび太が眠っている間に旅立つこととした。
昔の野比家は区画整理でとっくになくなり、今、のび太たちは研究所と併設した建物に住んでいる。
世界的ロボット工学博士にしては質素な建物ではあるが、最新鋭の機器が置かれた建物でもある。
のび太はタイムマシンとつながった古い学習机を、今も部屋の一角に残していた。
ずいぶんとボロボロになっているが、のび太にとって大事なものだったのだろう。
タイムマシンを再び引き出しの中に呼び込んだ。
どこに呼び込んでもいいのだけれど、不思議とこの狭い引き出しが落ち着く。
当時と違い、のび太は別の部屋で眠っていた。
会うのはなんだかつらかったし、照れくさかった。
だけども、旅立つとき、不思議と涙は流れなかった。
別に永遠の別れではない。
会いたくなれば、またいつでも来ればいいのだ。
だけど、今の自分は、またこの時代に来たいとは強く思わない……

それでも、次の月、そのまた次の月と、定期的にのび太の前には姿を現した。
のび太やしずかは毎回笑顔で迎え入れてくれ、のび太とは科学について議論を交わした。
のび太も世界中を飛び回る日々であったが、自分が来訪するときにはあらゆる予定をキャンセルして会ってくれた。
滞在は2,3日程度がほとんどで、国賓として骨川コンツェルン系の大きなホテルに泊まることも多かったが、必ず一晩はのび太の家に泊まることにしていた。
来訪は続けたが、あるとき、皆の予定が急に重なり、誰とも会えないことがあった。
彼らも世界中を飛び回る忙しい人物なので、仕方がないことではあるのだが、寂しい気分になった。
自分の存在が皆に負担をかけているのではないか――考えてみれば、実家の親が毎月のように来訪したら嫁は面白くないだろう。
それと似たようなことを自分はしていたのではないか。
それからというものの、来訪の回数を月1回から3ヶ月に1回、半年に1回、年に1回と回数を減らした。
不思議と誰もそのことに異議を唱えなかった。
のび太とは時折、タイムテレビで会話はしていたし、まったく音信不通というわけではなかった。
忙しく充実した日々を過ごす彼らだから、自分の存在など、会いたいときに会う人という扱いでいいのだろう。
自分もまたそれでよかったのかもしれない。
22世紀での、のび太の子孫セワシとの暮らしも悪くはない。

年に1回の訪問が、数年に1回の訪問にかわり、どれくらいが経ったことだろう。
あるとき、「虫の知らせアラーム」が激しく鳴った。
今までにない激しい鳴り方だった。
慌ててのび太の元を訪れると、のび太は病院のベッドでチューブを鼻に差し込まれて眠っていた。
すでに意識はなく、遠からず迎えが来ることは確かだった。
「どんな病気も治す薬」というものを持ってはいるが、老いには効かない。
「タイムふろしき」で若返らせることを永続的に人間に使うことは禁止されている。
人体、特に脳に害を与える可能性があるからだ。
世界遺産、人間国宝といってもいいのび太には、考えられる限り最大の医療努力が続けられた。
しかし、いくら医療が発展したところで、老いに勝てるわけではない。
知らせを受けてから一週間後、彼は家族や友人たちが見守る中、その生涯を終えた。
輝かしい生涯だったと言える。
自分も一週間、のび太の枕元で過ごした。
意識はすでになかったが、時々寝言のような声をのび太が発することがあった。
内容は大抵少年時代、自分と過ごしたときのことだった。
「ドラえもん!」と夢の世界で叫ぶのび太の声に、うつらうつらとしていた自分は驚いて何度も目を覚ました。
見ると、のび太の寝顔はロボット工学の権威となってからの張り詰めたものではなく、少年時代のものと変わらない穏やかでのんきなものだった。
「あたたかい布団でぐっすり眠る。こんなすばらしいことがあるか」と力説していたあの頃と同じ寝顔だ。
もしかすると、自分しか知らない寝顔かもしれない。
のび太は最後に自分のところへ戻ってきたのだ。
涙がボロボロと出た。

のび太の葬儀は盛大に行われ、出木杉元首相が代表して弔辞を述べた。
世界中、いや、宇宙中から弔問客があり、弔辞が届き、その偉大な業績が改めて証明された。
だけども……本当は彼も少年時代のように、のんびりと昼寝をするような人生に戻りたかったのではないか。
彼にとって最も輝かしいときは、偉大なる業績を上げたときからではなく、過去、未来、パラレルワールド、海、地底、宇宙を飛び回った少年時代だったのだ。


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