二次創作・ドラえもん小説「出木杉首相とドラえもんの対話」その3

ドラえもん小説
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(君がはるばる野比くんの元にやってきた真の理由は何なのか、そろそろ教えてくれないか?)
出木杉首相は何を言おうとしているのだろう?
ドラえもんにはその真意が理解しかねた。
「真の理由? 僕はただ子孫のセワシくんから頼まれて、先祖ののび太くんの世話をするよう遣わされただけだよ」
「本当にそうなのかい? そもそも、それなら同じことを考える人が他にもいそうなものだけど、君以外に出会ったことがないよ。第一、君は現代の町を普通に歩いていたけれど、どうして誰も警戒しなかったのだろう? 普通、ロボットがどら焼きを買いに来たら、お菓子屋の店主は仰天するよ。それに未来から来た猫型ロボットの存在を知ったら、科学者や日本国政府だって黙ってはいなかったはずだ。どこかの研究所につれていかれて、実験材料にされるのが普通じゃないかい?」
ドラえもんは質問に対し、一呼吸置き、頭の中を整理した。
子守用として開発されたドラえもんは、より人間的な思考回路を持つロボットであり、機械的、論理的に高速なデータ処理ができるわけではないのだ。
「まず、先に二番目の質問に答えるよ。これは簡単な理由さ。僕は子守用として開発されたロボットだ。誰からも警戒されないようできているのさ。動物の赤ちゃんが他の動物から警戒されず、命の危険があるときは保護してもらえるよう小さくかわいく生まれるように。身体が丸っこく作られているのもそのためさ」
「ああ、その本能は哺乳類が他より繁栄した理由と言われているね」
「それと、最初の質問だけど、これはどこまで答えられるか僕にもわからないけど、実は未来から過去に来るためには特殊な資格を持つことと、申請に通る必要がある」
「特殊な資格とは?」
「僕は『特定意志薄弱児童監視指導員』という資格を持っているんだ。未来の野比家の状況が悲惨だったから勉強して取得したんだ。これを持っていると、簡単に言えば、昔ののび太くんのようなだらしない子供を指導できるのさ。ひみつ道具を持参して過去に行くことも可能になる。野比家の先祖を調べて行くと、のび太くんこそがそれに該当したんだ。さっきも言ったように過去へ行くのは旅行程度ならルールを守れば簡単に行けるようになっている。しかし、のび太くんのような児童を教育して、未来を変えようとすると、それなりの理由や資格が必要だったので、なかなか申請が通らなくて大変だったよ」
「特定意志薄弱児童監視指導員か……現在のロボット工学の第一人者がそれに該当するとはね」
「正直、僕ものび太くんにこんな才能が隠れていたなんて思わなかったよ。未来の誰かがこのことを知っていて、僕をのび太くんの元に遣わしたのかはわからない。そもそも僕がセワシくんの子守をするようになったのは、セワシくんが間違えて僕を注文したことが始まりだし、ネズミ型ロボットに耳をかじられたのも偶然だと思う。それさえ運命で決まっていたというのはどうかと思うね」
「いわゆるアカシック・レコードというものがあるのかな?」
「アカシック・レコード? ああ、この世のあらゆることが記録されているという存在かい? それは22世紀の科学でもわかっていないよ」
ドラえもんの言葉を聞き、出木杉はまた考え込むような姿勢になった。
ドラえもんはその間、お茶をすすった。
21世紀のお茶もなかなかうまい。

「さっき、未来社会でも犯罪は減ってないと言っていたけど、犯罪者もひみつ道具を使うわけだよね? そもそも、君みたいなロボットがあちこちにいるようだけど、秩序は保たれているのかい?」
「ひみつ道具はすべて規格・基準が決まっていて、当然、その中に安全基準がある。犯罪に使おうとしたら機能停止させることだってできるんだ」
「なるほど、それはそうだね……そういえば、君は地球破壊爆弾を持っていると聞いたことがあるけど」
「ははは……確かに持っているよ。でも、使おうとしたら、たぶん僕自身が機能停止するか、機械の安全装置が働くと思うね。なんなら、ここで試してみようか?」
「……それは遠慮しておくよ」
冗談で言ったつもりだったが、出木杉の顔は笑っていなかった。
「ちょっとブラックジョークすぎたかな……」
「いや、気にしないでくれ。もうひとつ質問していいかな?」
「なんだい?」
「機械で便利になる時代が訪れるのはわかったけど、そこに至るまでになんらかの抵抗や、社会問題は起こらなかったのかい?」
「エラー19640807」
「やっぱりエラーか……」
「あ……僕、今、止まっていた?」
「ああ、エラーを出していたよ。さっきとは番号が違ったけど」
「そうか……難しい質問にはやっぱり答えられないね」
「やっぱり未来のことを教えてもらえるほど甘くはないか」
出木杉は厳しくしていた表情を少し緩めた。
「一番、気になるところだよね……でも、やっぱり未来の重要なことを教えるのは難しいのだと思う」
「自分たちでなんとかしろってことか……」
「たぶん、未来にも影響することなら、未来から何か連絡が来るんじゃないかな?」
「そういえば、野比くんが君を目覚めさせるときは、未来から通達が来たよ」
「そうだろう……ということは、この問題はそう難しいことじゃないのかもね」
出木杉は腕を組んで天井を見上げた。
「僕が悲観的すぎるのかもしれないのだけど、未来へ向かって、希望的な観測ばかりできないんだよ……」

その4へ続く

二次創作・ドラえもん小説「出木杉首相とドラえもんの対話」その4
出木杉が危惧していたのは人類の未来についてだった。 どこまで話していいのか迷うドラえもん。 人類は22世紀を迎えるまでに何が起こるのか……

コメント

  1. 匿名 より:

    >どうして誰も警戒しなかったのだろう >仰天するよ
    日テレ版のOPテーマ曲がまさにそれだったようだね

    >特定意志薄弱児童監視指導員
    公式では採用されなかったとはいえ、方倉陽二が描くほど当時の時点でこの問題に対してツッコミが多かったのだろうな

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