二次創作・ドラえもん小説「出木杉首相とドラえもんの対話」その2

ドラえもん小説
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(君を再び目覚めさせたのが良かったのだろうか? と僕は思っているんだ)
出木杉の口から放たれた言葉はドラえもんにとって衝撃的だった。
(彼は何が言いたいんだ……?)
ドラえもんが警戒するような態度を取ったので、出木杉はすぐに表情を緩めた。
「すまない、警戒させてしまったようだ……大丈夫、君をどうこうしようとは何も思っていない。身の安全は保障するよ。ただ、僕はさっきも言ったように日本国民を導く立場にある。だから、このまま科学が発展しすぎて行くことに警戒する心を持っているんだ」
表情を緩めてはいたが、言葉の内容はまだ真剣なものだった。
「科学の発展? いいことじゃないの?」
「本当にそうだろうか? 野比くんが君を目覚めさせたことで、世界の科学レベルは飛躍し、このまま行けば、世の中から戦争も貧困もなくなるかもしれない……だけど、それは人類にとって早すぎたのではないかと怖くなることがあるんだよ」
「なるほど、そういう話か……」
少し納得し始めたドラえもんだった。
出木杉は言葉を続けた。
「人類は道具を開発することで、他の動物を支配するほどの立場になったわけだけど、便利な道具が開発されるたびに人間そのものの性能は落ちているのではないかと感じるんだ。例えば、人間は自動車という移動手段を開発したわけだけど、結果、昔の人に比べて、足腰は弱くなっていると思う。遠くを見る必要がなくなったから、近視の人間が増えたし、コンピュータが計算してくれるから、演算能力だって落ちているのではないかな……」
「それはそうだね……」
「世界各地の神話に、空を飛ぶ人間や超能力を使う人間の逸話があるわけだけど、あながち嘘ではないかも……と最近は思うようになったんだ。本来、人間はそういう能力を持っていたんじゃないかってね」
「それはちょっと飛躍しているかもしれないね……そういえば、20世紀のSF小説に未来人は頭と手しか持っていないなんて話があったな……でも、未来人の体力低下については大丈夫だよ。一応、肉体鍛錬プログラムのようなものがあって、最低限度の運動はするようになっている」
「それならいいんだけど……」
「何か、もっと気になることがあるのかい?」
「昔、僕は一度、君たちに22世紀へ連れて行ってもらったことがある。そこには確かに豊かな世界があった。だけど、あのときのことを思い出すと、なんだかおかしいなと思うことがたくさんあるんだ」
「おかしなこと? 例えばどんな?」
オウム返しのような返事しかできないドラえもんだった。
「例えば、未来人はどうやってお金を稼いでいるんだい? あらゆることを君のようなロボットがしてくれるなら、誰も働かなくていいはずだろ? でも、未来ではまだお金という概念があるようだった」
ドラえもんは答えに窮した。
「答えられないことなのかい?」
出木杉が難しい顔をしているドラえもんに問いかけてきた。
微笑みを絶やしてはいないが、彼の目は真剣そのものだった。
「出木杉くん、あらかじめ言っておく。僕には答えられることと答えられないことがあるんだ。それは未来のことで、いくつかの事項については伝えてはならないという22世紀の法律があるからなんだ。決して、僕が誤魔化しているのではなくて、僕の電子頭脳にプロテクトがかかっている。だから仮に僕がそのことについて、何か言おうとしても、内容によっては、僕の電子頭脳はエラーメッセージを出して、数秒停止する」
「なるほど、そうなっているのか。確かにそうだよね。未来で何が起こるかわかっていたら、それを利用して金儲けをしようとする連中だって現れるだろうし」
「そのとおり。さすがは出木杉くん……だけど、お金に関してはおそらくある程度までは答えられるよ。未来では確かにいくつかの仕事がなくなっている。だけど、デザイナーや漫画家のようなクリエイティブな仕事は存在しているし、何もしないことを嫌って、農業をしている人もいるし、商売をしている人もいる。それもわざと伝統的な手法を使ってね。一時期、昭和ブームなんてものが起こったこともあったよ。旅行だって、どこでもドアで世界中を飛び回れるのに、わざわざ、電車や飛行機に乗って行く人がいるくらいさ。そうでないと、旅をしている気分になれないからってさ」
「そうなのか……考えてみれば、ひみつ道具を開発している人だっているわけだよね」
「そう、未来デパートなんてものも存在しているしね。お金は特別なサービスを得たい人だけが、何かをしたいときにだけ働いて稼ぐ感じかな。でも、中には働きたくない人もいるわけで、そういう人にはいくつかの道具が渡されて、食べていくことには困らないようになっている」
「一見、理想的な世界だね。じゃあ、自殺や犯罪なんかもないのかい?」
「残念だけど、タイムパトロールという存在があるように、犯罪自体はなくなってはいない。人間はそこまで神聖な存在にはなれていない。自殺はあることはあるけど、数は21世紀よりずっと少なくなっているね。それ以前に、『どんな病気も治るクスリ』が開発されているし、医学の進歩もものすごく向上しているから、ほとんどの人間は老衰でしか死ななくなった。22世紀の平均寿命は120歳だよ」
「120歳! 社会保障なんかは大丈夫なのかい?」
「公的な年金制度は破綻しているけど、さっきも言ったとおり、道具が渡されることで十分生活していけるからね。『グルメテーブルかけ』があれば、食べ物には困らないし、そもそも、どんな病気も治るのだから医療費もかからない。保険も必要ない。医者の仕事はケガ人の処置くらいさ。それもずいぶんと便利な道具が作られていて、あまり技術が問われないようになっているけれど」
「じゃあ、税金というものはどうなっているんだい?」
「税金は存在しないよ。公務員もほとんどロボットが務めている。議員はさすがに人間だけどね。でも、議員としての報酬はない。お金が欲しければ自分で稼ぐか、政治資金をもらっているみたいだね」
「一応、議員は存在しているんだ」
「人数はずいぶん減っているけどね」
政治のことに触れたせいか、出木杉の表情が少し硬くなっていた。

「未来には、国という概念はあるのかい?」
「エラー21120903」
電子音を出した直後、ドラえもんは一瞬、気を失った。
「あ、今、もしかして止まっていた?」
目をパチパチとさせてドラえもんはつぶやいた。
今までに感じたことのない気持ち悪い感触だった。
「ああ、エラーを出した。今の質問はタブーみたいだね……じゃあ、少し質問を変えてみるかな。ドラえもんは23世紀や24世紀といった未来に行ったことがあるのかい?」
「未来へ行くことは禁じられているんだ。君が22世紀に行けたのは22世紀に住む僕がいたからさ。行くのが禁じられている理由はわかるよね?」
「さっきも言ったように不正な金儲けをしようとする人間が現れるだろうし、自分がどんなふうに死ぬのかわかるのも嫌だし、未来を知ってしまったら人は努力しなくなるかもしれないし、それ以前に未来の地球は人が住める環境なのかわからないし、そもそも、人類に未来があるかもわからないよね」
「そのとおり。未来が人間の住める星じゃなかったら、到着した途端、死んでしまうからね」
「でも、未来人が22世紀に来ることはないのかい?」
「それはあるのかもしれないけど、見ただけで誰が未来人かなんてわからないしね。22世紀の法律では、過去へ旅行などに行く場合、専門の添乗員とタイムパトロールの職員が歴史に干渉しないか監視するため同行する上に、道具を使って姿を消す必要がある。その法律が23世紀にも生きていれば、姿を消しているのかもしれない。ただ、以前、夏休みの冒険で対決した相手に23世紀からやってきたギガゾンビという犯罪者がいたな」
「ということは、少なくとも23世紀まで人類は存在しているわけか」
「どんな社会かわからないけどね」
ドラえもんが皮肉っぽく言葉を出すと、出木杉は再び難しい顔をしていた。
「ドラえもん、僕はさっきも言ったように国民を導く立場にある。これから先、どんな社会になっていくのかわからないが、後を継ぐ者たちの道を間違えさせたくないんだ」
「それはよくわかるよ。だけど、それはこれからの人間が考えて行くことで、君がそこまで心配することじゃないでしょ? 少なくとも、僕がいた22世紀はいい世界に思えただろ?」
「確かに素晴らしい世界だった。だけど、未来は変わることがある。以前、野比くんが酔っ払った拍子に言っていたのだけど、彼は元々、剛田くんの妹と結婚するはずだったとか」
ドラえもんは一瞬、バツの悪そうな顔をした。
出木杉もまた現在ののび太の妻、静香のことを思っていたことを知っていたからだった。
「そのあたりはタイムパラドックス的な話になるので難しくなるけれど、例えば、のび太くんの結婚相手が変わったからと言って、のび太くんの子孫のセワシくんが消えているわけではない。時の流れはどこかで辻褄を合わせるんだよ」
「その世界は、パラレルワールドではないのかい?」
「もしかするとそうかもしれない。残念ながら、22世紀になってもそのあたりは解明されていない。もしかしたら、別の次元にジャイ子ちゃんと結婚しているのび太くんはいるのかもしれないし、のび太くんの借金が大きすぎて、セワシくんのお年玉が50円しかない世界もあるのかもしれない」
「そうか……じゃあ、今度はもう少し君のことについて、聞いてみてもいいかな」
「いいよ。答えられることには答えるよ」
「君がはるばる野比くんの元にやってきた真の理由は何なのか、そろそろ教えてくれないか?」

その3へと続く

二次創作・ドラえもん小説「出木杉首相とドラえもんの対話」その3
出木杉はドラえもんに22世紀からやってきた真の目的は何かと聞く。 戸惑うドラえもん。 出木杉は何を危惧しているのか……

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