二次創作小説:私の考えた「美味しんぼの最終回」その1

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※原作では和解してしまいましたが、以前こんな最終回を予想してました。

山岡士郎と栗田ゆう子が所帯を持ってから数年が経つ。
子宝にも恵まれ、時には困難に巻き込まれることもあるが、二人で力を合わせて解決してきた。
長年の大プロジェクトであった究極のメニューも完成させ、義父・海原雄山からも賞賛を浴びた。
一方、雄山も至高のメニューを完成させ、一時は究極か至高かで世論が大きく分かれ、山岡夫妻も時の人となっていた。
現在はブームも一段落し、平穏な日々を送っている。
士郎と海原雄山との確執は相変わらずであったが、周囲の人間たちの協力もあり、今では美食倶楽部への自由な出入りが許される身となった。
士郎と雄山が顔合わせすることも多くなっていた。
ある日、美食倶楽部内で、ゆう子は山岡の乳母であるチヨから一冊のアルバムを見せられた。
片づけをしていたら偶然出てきたものらしい。
幼い士郎の無邪気な姿にゆう子は微笑んだ。
チヨはといえば、昔を思い出して涙を流している。
ふと、一枚の写真に目が留まった。
幸せそうな家族の肖像であった。
七五三の写真だろうか、若き日の雄山夫妻と父親の腕に抱かれた士郎の姿があった。
「本当に幸せな家族に見えるでしょう。本当に雄山先生は士郎様や奥様のことを大切にされていたのよ。それがどうしてこんな風になってしまったのか……」
涙をハンカチでぬぐいながらチヨがゆう子に語った。
ゆう子もまったくチヨの言うとおりだと思う。
ゆう子は再びアルバムをめくった。
士郎の母、雄山の妻である女性はつつましやかで美しい。
それでいて品があり、芯も強そうだ。
こんな女性になりたいとゆう子も思う。
しかし、ページをめくっていくうちに、気づいたことがあった。
「おチヨさん、士郎さんがおじいさんやおばあさんと一緒に映っている写真がないのね? 雄山先生のお父さんやお母さんはどんな人だったのかしら」
チヨは意外そうな顔をした。
「そういえば、聞いたことがないねえ。先生はあまり自分の家族のことを話す方ではないからねえ。私たちも恐れ多くて聞きにくかったのもあるけど……唐山陶人先生なら何か知っているかもしれないね」
「陶人先生か……」
好奇心というわけではなく、何か予感めいたものをゆう子は感じていた。
オカルト的なことを信じるわけではないが、これまで何度も予知夢やら、霊的な体験をゆう子はしたことがあった。
そういう直感を信じることにしていたのだ。
思い立ったら一直線のゆう子である。
数分後にはチヨに挨拶を告げ、駆け出していた。
途中、雄山とすれ違ったように見えた。
おそらくは慌しいゆう子に「なんという娘だ」と嘆息していたことだろう。

唐山邸は広大な敷地を誇る日本式旧家である。
若き日の海原雄山もこの屋敷に住み込んで修行したという。
雄山の師匠である唐山陶人は、ゆう子を暖かく出迎えてくれた。
白いひげが特徴的な小柄な老人である。
ゆう子はぶしつけながらいきなり質問をぶつけてみた。
質問に対して、いつもは飄々とした陶人であったが、珍しく厳しい顔を見せ、「一週間後、士郎と共に来なさい」とだけ告げて、ゆう子を追い返した。
一週間後、唐山陶人宅でふたりは握り飯を出された。
陶人はひとこと「それを食べてみろ」と無愛想に言った。
士郎が「じいさん、耄碌したのか?」と軽口を叩いたが、いつになく陶人が真剣な表情であるので、バツが悪そうに無造作に握り飯をほおばった。
「おいしい……」
素直なゆう子の感想だった。
さらりと米が口に溶けて行く感覚といい、ほどよい塩の良さといい、簡単な料理だけに余計すごさが際立っている。
「いい米を使っている。塩も生半可のものじゃない」
士郎も唸っていた。
「うまいだろう?」
陶人が初めて表情を崩していた。
しかし、すぐに厳しい表情となって「感想はそれだけか?」と士郎に問いかけた。
「感想? 一体、じいさん何をたくらんでいるんだ?」
一瞬、陶人が残念そうな顔をしたようにゆう子には思えた。
「何もないよ。ただ、同じ物をおまえに作れるのかと思ったのだよ」
「俺ならもっとうまいものを作ってみせるぜ」
「ほほう、相変わらず強がる奴じゃのう。なら一週間以内に作ってみせよ」
「けっ、何をたくらんでいるのかわからんけど、売られた喧嘩なら買ってやろうじゃねえか! これよりうまいものを作れたらどうしてくれるんでい!」
なぜか江戸前口調で話す士郎である。
「そのときはこの屋敷をやるよ」
平然と言ってのける陶人。
「こんなボロ屋をもらってもうれしくないが、唐山陶人の屋敷と聞けば、売れば金にでもなるかもしれないな。この勝負もらった!」
言うが早いが、士郎は飛び出していった。
こんなところは夫婦揃ってそっくりだなとゆう子も思う。
「ごめんなさい、陶人先生。夫が乱暴なことを言って」
「いいんだよ、いつものことじゃ」
ゆう子よりも長い間、孫のように士郎を見てきただけに陶人は平然としていた。
「でも、あんな約束していいんですか? まさか本気にはしていないと思いますが」
「今の士郎にこの握り飯は作れんよ。あの雄山でさえ同じものを作るのに半年もかかったのだからな」
「えっ?」
「フォホホホ」
陶人は好々爺ぶった笑い声を上げていた。案外この人は恐ろしい人かもしれないとゆう子は思った。

その2へ続く

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