二次創作・ドラえもんの最終回を勝手にノベライズ。その2

ドラえもん小説

のび太は学校に行くと、「ドラえもんは用事ができて未来へ帰った」と皆に告げた。
ジャイアンやスネ夫は「どうして黙って帰ったんだ!」と激怒したが、不思議とのび太を責め続けはしなかった。
一番辛いのはのび太だからと気づいたからだろう。
それからののび太はキリッとした眉と、引き締まった口元を維持し続けた。
初めは年に何度か起こる発作だろう、と笑っていたジャイアンやスネ夫たちであったが、その発作が1ヶ月、1年と続く内に、誰も笑わなくなった。
むしろ、焦ったジャイアンやスネ夫がのび太に負けるな、と必死になって勉強を始めたくらいだった。
気づいたとき、のび太は出木杉と同じ高校に入れるレベルまで学力を高め、そして高校に入ると、出木杉さえも抜き去った。
「のび太は変わった」
皆がそう言うようになった。
けれどもひとりだけそれを否定する人間がいた。
源しずかである。
「のび太さんはずっと無理している。私にはわかるの……」

「タイムパラドックス? 確か、時間旅行の際、歴史に影響を与えることによる矛盾だったかな?」
チョビ髭をつまみながら、スネ夫が答えた。
「そう! さすがは骨川くんだ」
出木杉が感心したように言う。
出木杉は畳み掛けるように話を続けた。
「今、我々の文明は袋小路に迷い混んでいると言ってもいいだろう。君たちも気づかないかい? ドラえもんが来たという未来に繋がるには、あまりにも進化のスピードが緩やかだと」
武とスネ夫は初め戸惑った表情をしていたが、途中で合点が行ったようだった。
「そういえば、俺たちが大人になる頃には、車が空を飛んでいてさ……宇宙へなんかも普通に行けるはずだったよな」
「そうだね、ジャイアン! ボタンひとつで料理ができたり、メイド型のロボットがいたりしてさ」
「そう! ふたりが言うように今頃、文明はそれくらいまで発展しているはずだった。そうでないと、ドラえもんが来た未来へはとても繋がらないんだ。それに気づいた僕は、それからは観察者として、じっくり慎重に注意深く行動するようにしたんだ。君たちが夏休みのたびにしていた大冒険にも参加せずにね」
出木杉は最後のフレーズのみ、少し残念そうに言った。
「出木杉、何が言いたいんだ?」
武とスネ夫には、出木杉の発言の主旨がわからなかった。
いや、まったくわからないというより、少しわかるような気がするから、気味が悪い。
出来杉は立ち上がり、窓の外を覗いた。そこには現在の文明にとって精一杯の光の海が広がっている。
「今夜、歴史を一足飛びに進化させる発明が、ある技術者により完成する。この事実は歴史が狂うほどの危険性を持っているため、全世界のトップに『彼の者への干渉を禁ず』と”未来”から通達が来たほどの超重要機密事項だ」
武とスネ夫は目を見合わせた。
「おい、俺たちにそんなこと言っていいのかよ!」
「その技術者ってもしかして!?」
ふたりは同時に叫んでいた。
「剛田くん、骨川くん、僕は一度だけドラえもんとのび太くんに連れられて未来へ行ったことがあるんだ。そこでは、みんなが科学文明の恩恵を受けて笑顔で暮らす素敵な世界だった。貧困も戦争もなかった。だから、僕は歴史が進む方向は間違っていないと思う」
出木杉は自分に言い聞かせているようだった。
「少年の頃に迫られたひとつの決断……僕ならどうしていただろう? しずかさん、今ならわかるよ。彼は何も変わっていなかった。彼は世界的なロボット工学の権威になどなりたかったわけじゃないんだ。ただ友だちを助けたかっただけなんだ……まさしく、パラドックスだが、35年前、世界の未来と夢は彼に託されていたんだ」

「しずか、こちらへ来てごらん」
のび太は今まで誰も通さなかった研究室の一角へ、妻のしずかを案内した。
「ここは危険だから入ってはいけないって言ってたじゃない」
抗議するような口調のしずか。
しかし、のび太は返答をしなかった。
見てもらえれば、すべてがわかるからだ。
部屋に入った途端、しずかは「あっ!」と声をあげそうになった。
カプセルの中に35年前別れたはずの友だちが横たわっていたからだ。
当時と違い、友だちの身体の色は黄色くなっており、耳がついてはいたが。
「今、スイッチを入れるよ」
のび太がボタンを押すと、カプセルの中が光った。
続いてカプセルが開かれ、のび太は友だちの身体を起こし、尻尾を強く引っ張った。
しずかは尻尾がスイッチになっているという話を思い出していた。
友だち……ドラえもんの目が光を取り戻した。
「のび太くん、宿題は終わったのかい!」
その声は35年間、聞くことはなかったが、のび太たちが決して忘れたことのない友だちの声だった。
この日をどれだけ待ち望んだことか。
今や、髭面になり、身体も太ってしまったのび太だったが、この瞬間は少年の表情に戻っていた。
しずかは35年前から妻の自分にさえ見せることのなかった、そんな夫の表情を、涙でかすんだ瞳で見つめていた。
「ドラえもん、僕、がんばったんだよ……」
「のび太くん? のび太くんなのかい!?」
「そうだよ、ドラえもん……ああ、懐かしい」
「立派になって……何がどうなっているんだい?」
「ドラえもん、あれからもう35年も経ったんだよ」
「35年……ずっと不思議な夢を見ていたような気がする。君が立派な人間になっている夢だった。だけど、それは本当のことだったんだ……」
「ドラえもん、35年分の話をゆっくりしようよ」
あとはもう互いに言葉にならなかった。(了)

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