二次創作・ドラえもん小説「骨川スネ夫の回想」

ドラえもん小説
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はじめに
私の書くドラえもん小説は、一時期ネット上でも話題になったいわゆる「ドラえもんの最終回」を基本としており、その後の世界の話となっております。
「ドラえもんの最終回」の漫画は、ネットを検索したら今でも見られると思いますが、私も勝手にノベライズしていますので、よかったら読んでみてください→こちら

(カエルの子はカエルか……)

息子のスネ樹を見ていると、どうしてもそう思ってしまう。

スネ樹には骨川コンツェルン総帥の後継者にふさわしい帝王学を施しているつもりだった。

一流の指導者たちに一流の指導をさせ、一流の感性教育もさせた。

一流の食事を摂らせ、一流の音楽を聴かせた。

しかし、持って生まれた性格は、やはり親に似るようだ。

思えば、自分はどれだけ卑怯者だったことか。

ジャイアンこと剛田武に狙われたくないばかりに、積極的にのび太をいじめることで、自らの地位を守った。

出木杉のように勉強ができるわけでもなく、ジャイアンのように体力があるわけでもない自分は、のび太のような絶対的弱者をいびることで、自らの地位を守るしかなかった。

もし、のび太がジャイアンの標的でなくなれば、自分がその立場になっていたことだろう。

いや、そのときはまた違う誰かを選んでいたか……自分よりまだ下がいると思えることは大事だった。

自分がたいした人間でないことはわかっていた。 

気取ってはいたが、弱い自分を見せないための仮面だ。

何度、追い詰められたとき「ママー!」と叫ぶ、醜態を晒したことか。

金持ちの家にたまたま生まれたから多くの自慢ができたが、これは決して自分の手柄ではない。

息子のスネ樹には、金持ちであることを自慢するなと厳しくしつけてある。

それは親の手柄だからだ。

親に買ってもらった物を自慢したところで、自分の手柄ではない。

親に海外旅行に連れて行ってもらったからといって、自分の手柄ではない。

今、スネ樹にはできるかぎりのことをしてやってはいるが、それはすべて親である自分の手柄だ。

スネ樹が稼いだ金は1円もない。

小遣いも常識程度の額しか与えていない。

スネ樹には努力しろと言っている。

子供の努力といえば、まずは勉強だ。

しかし……ドラえもんが電池切れになってからのび太があのように努力するとは、まったくの計算外だった。

あのグズで、ノロマで、自分の名前を「のび犬」と書いていたようなボンクラののび太が、出木杉を追い越すような秀才になった。

幼稚園児並の工作しかできなかった不器用なのび太が、ロボット工学の権威になってドラえもんのような偉大な発明を実現した。

驚愕の事実だった。

次の標的を見つけたことと、中学に進学したことでガキ大将がどうこうなんていう年代ではなくなったからよかったものの、一時は、危うく自分が最低の地位に落ちてしまうところだった。

上の次元へ突き進んでいくのび太をどれだけ妬んだことか。

妬む……そう、自分はずっとのび太に嫉妬していたのかもしれない。

やさしいあいつのまわりにはいつも人が集まった。

時にはジャイアンのような迷惑な存在にまとわりつかれることもあったわけだが、うらやましくて仕方がなかった。

少なくとものび太は嫌われてはいなかった。

ドラえもんと一緒に住んでいることも、どれだけうらやましく思ったことか。

あちこちにお世辞やらおべっかを振りまいてはいたものの、自分には心が許せるような友達がひとりもいなかった。

みんな表面上の付き合いだった。

自分に嫌われるとジャイアンに告げ口をされて一緒にいじめられるかもしれないから、みんな自分に適当に合わせてくれていただけだ。

だから、のび太が楽しそうにしていると心底腹が立ったものだ。

人間は自分と同じか、それ以下の存在がちょっとしたチャンスをものにしたりすると気に入らない。

初めから遠くかなわない出木杉のような存在が、ほめられたり、女の子にもてたりしても仕方がないとあきらめがつくが、自分以下と思っているのび太がほめられたりすると猛烈に嫉妬心を感じてしまう。

「のび太のくせに生意気!」

何度このセリフを吐いたことか。

自分の偽らざる本音だった。

同時に怖かったのだと思う……のび太が自分を追い越してしまうことが。

中学のとき、それは現実となったわけだが、自分ものび太に負けまいと努力したことが、今につながっているように思う。

のび太に追い越されてたまるかと、自分も一時期必死で勉強した。

あっという間においていかれたが、無駄ではなかった。

のちにそれなりの大学を卒業し、父の会社に入った。

コネで若くして役員になり、時には卑怯なこともしたが、父親から受け継いだ会社を日本有数の大企業にすることができた。

今では世界の株式相場に与える影響力から「ひとことで100万ドルを動かす男」とまで言われている。

今や骨川コンツェルンの総帥として、ロボット工学博士として世界的権威となっているのび太に負けない地位を手に入れたつもりだ。

やっとのび太に追いついたのだ。

ただ、地位ではのび太に追いついたものの、ビジネス上でしか友人はいないかもしれない。

みんな金だけの付き合いだ。

自分が破産でもしたとき、誰が友達でいてくれるだろう。

それこそ、のび太とジャイアンくらいのものだろう。

息子のスネ樹を見ていると、自分が小学生の頃とそっくりの人間関係に驚く。

のび太の息子が予想以上に腕白で、ジャイアンの息子が予想以上に気弱だった。

なので、のび太とジャイアンの地位が入れ替わっているが、力関係もやっていることもかわりがない。

息子の地位は、昔の自分の地位だ。

父親の血か、ゴマすりと矛先をかわすことにはスネ樹は長けているらしい。

のび太の息子ノビスケにうまくこびて、ジャイアンの息子ジャイチビことヤサシをいじめているようだ。

「ジャイチビのくせに生意気!」というフレーズを聞いた時は背筋が凍りそうになった。

同時に涙が出そうになった。

大きくなれスネ樹……

スネ樹と名づけたのは、木のように大きく、太く育って欲しいという願いからだった。

自分と同じような人間になってほしくなかったわけだ。

まあ、多かれ少なかれ、みんな卑怯なことはしているのかもしれないがな……

「総帥、剛田デパートの剛田社長様がお越しです」

「うむ、通ってもらえ」

執事が案内すると、スネ夫から見ると悪趣味極まりない派手な衣装でジャイアンこと剛田武が部屋に入ってきた。

「おう、スネ夫、100億ほど融通してくれよ。最近、スーパーのほうも始めたんだが、あんまりもうからなくてよ。いいだろ、おまえのものは俺のもの、俺のものは俺のものだし」

「やあ、ジャイアン、よく来てくれたね。今日はまた豪華な服を着ているじゃないか、イタリア製だね。靴はフランス製かな。よく似合うよ」

「おお、気づいたか。さすがに目が高いな。これはうちのデパートで今売り出し中の服なんだ。まずは最高のモデルである俺様が着ることで宣伝効果を出しているわけだ」

「ああ、そうだったんだ。ジャイアンは体格がいいから最高のモデルだよね」

「おお、おまえもそう思うか、ところで金の件だが……」

「あ、ジャイアン気づかなかった、この時計もスイス製の最高級品じゃないか!」

大きくなれ、スネ樹……


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